パソコン産業の衰退から紐解く、自動車産業に起きる変革と未来予想

自動車産業

パソコン産業から学ぶ自動車産業の未来予想

日本のパソコンメーカーの栄枯盛衰の歴史を紐解くことで、日本の自動車産業の課題を明確化し、これから辿る未来について考察していこうと思います。

4つのプロセスで解説していきます
・日本のパソコン産業が発展した経緯
・日本のパソコン産業に起きた変革とその原因(ゲームチェンジ)
・日本の敗北とその原因
・自動車産業に置き換えて考察

今まさに自動車業界に起きている大変革が起きるべくして起きていることを解説します。自動車産業の変革は未来の見えない変革ではなく、すでに他業界が通った変革であることを理解することで、向かうべき指針の参考にして頂ければと思います。
この記事を読めば、テスラや中国新興企業、欧州メーカーが日本を倒すべく狙っている戦略がわかるようになります。

まずは現在の国内パソコン販売台数から現状について整理します。

2021年パソコン メーカ別国内販売台数シェア

引用:IDC「2021年通年の国内トラディショナルPC市場実績値を発表」

こちらのグラフを見ると一見日本の会社が売れているように思えますが、TOP5は実は全て外資です。
その悉くが外資によって塗り替えられていることがわかります。現在残っている日本企業はPanasonicとVAIOぐらいであり、いずれもTOP5には入っておりません。
もし、レノボやデルに負けずに、日本がそのシェアを奪えていたならば、毎年15兆円近い売上の市場を日本が持てていたはずです。ホンダの売上が15兆円であることを考えると非常に大きな市場を失った事がわかります。これがもし自動車業界で起きて、その市場を奪われれば自動車産業従事者550万人が路頭に迷うことになります。それだけは避けねばなりません。

日本パソコン業界の栄枯盛衰の歴史

日本パソコン産業の発展

まずは日本企業がどのようにパソコン産業が発展したかを紐解きます。
パソコンが世界の産業として大きな地位を確立したのは、1981年発売のIBM-PCが発売されてからでした。その後、1984年にIBM-PC/ATが発売され、その互換機が世界標準となります。
一方その頃日本では、日本電気(NEC)がPC-9800シリーズを1982年に発売し、国内シェアの過半数を獲得します。なぜ1年遅れで発売したPC-9800シリーズがシェアを獲得できたかというと、そこには「日本語処理の壁から海外からの参入が出来ない」という日本ならではの参入障壁があったからです。
つまり、日本メーカーが日本国内でパソコン産業を発展させられたのは、グローバル競争のない鎖国状態であったからであると言えます。この鎖国状態は1990年まで続くこととなり、結果として日本メーカーをグローバル競争から遠ざけ、独自の発展をすることとなります。

日本パソコン産業に起きた変革とその原因 〜参入障壁の破壊〜

事態を急変させたのは、1990年半ばに登場したWindowsでした。これにより日本製PCと海外製PCを比べた時に、日本語入力の観点で差がなくなります。つまり参入障壁が壊されてしまいました。ここから日本の独占状態であった国内パソコン市場に海外からの参入が相次ぎ、日本パソコンメーカーは半強制的にグローバル競争を強いられることとなります。

下記に参入障壁破壊前後の違いを模式図にしました。

日本の敗北とその原因

海外メーカーが国内市場に入り競争が激化したことは分かりましたが、なぜ日本メーカーは負けてしまったのでしょうか?
パソコン品質が海外メーカーの方が良かったからではないです。それよりももっと根本的な違い。企業体制(戦略)によって負けてしまいました。海外メーカーの参入によって、日本のパソコン産業の構造は大きく変化することになります。水平分業モデルによる垂直統合モデルの破壊です。

下記に模式図と共にそれぞれの違いを書きます。
水平分業:1つの製品の開発から販売をいくつかの専門会社が分担して行うモデル
垂直統合
:1つの製品の開発から販売までを1社が行うモデル (トヨタ自動車、Appleなど)

模式図:垂直統合と水平分業の違い

日本の企業は垂直統合型のモデルを取っていました。それに対して、海外メーカーのIBMなどは水平分業型のモデルを取っていました。日本パソコン産業に海外メーカーが参入してきた時、水平分業型のメーカーによって、大きく3つの強制的な変化を起こされてしまいます。

①家電量販店による販売レイヤーの変化
 ・お客様は専門店に行かなくてもパソコンが買えるようになる
 ・他社製品との比較が容易になり、ブランド力での拘束が難しく価格(コスパ)の争いが主軸となる
 ・専門店自体が不要となるため、専門店を保有している垂直統合型の企業はコストが重くのしかかる②レイヤーマスターによる業界標準の構築、使用せざるを得ない標準仕様の変化
 ・業界標準を使用しないと売れなくなる(Windows OS や intel CPUなど)
 ・垂直統合型で自社開発していた企業は部署/工数が不要となり、コストが上がる
③開発サイクルの短期化
 ・日本メーカーは短期化する開発サイクルに付いていけなくなり、投資回収が難しくなる
 
以上の3つのことから、日本企業は体制が垂直統合型でありながら、水平分業型への変革を余儀なくされました。しかしながら、結局は変化に対応できず、撤収または買収されていくことになります。
パソコン産業はコスト勝負で負けたのは間違いないのですが、それは結果論であり本質を突いていません。本質は市場が大きく変化した(海外メーカーが参入した)時に、産業構造自体が大きく変化したことに対して対応できなかったことです。このように産業構造自体を変化させてしまうことをデコンストラクション(脱構築)と呼びます。
パソコン産業で最後に笑ったのは、レイヤーマスターとなったintelやWindowsとなります。IBMも結局は凋落してしまったのですから。

パソコン産業の栄枯盛衰まとめ

パソコン産業の栄枯盛衰を整理すると以下になります。
◆発展期
 日本語入力の壁という参入障壁によって、国内市場が守られていたため、のびのびと競争ができた
◆転換期
 参入障壁の破壊によって、海外メーカーが国内市場に入ってきた
◆転落期
 海外メーカーの水平分業構造の競争に付いていくことができなかった

参考文献:世界パソコンメーカーの上位5社の推移

  • Compaqは、IBM互換機での低価格競争に火をつけた。2002年にHPに吸収合併
  • Lenovo(聯想集団有限公司)は、2004年にIBMのパソコン事業を買収。2011年にNECのパソコン事業部と合弁のNECレノボを設立、2012年にNECは同社株を売却
  • Dellは、デルモデルと呼ばれたインターネットによる注文生産SCMで成功
  • Packard Bellは、1996年にNEC海外部門と合弁でPackard-Bell NECを設立、1998年にNECの完全子会社になる。2007年にPackard BellはAcerに買収された。
  • Acerは、以前から大手メーカーのOEMを行っていたが、自社ブランドを発表しシェアを伸ばした。2007年にGateway(米国)を買収
  • ASUS(エイスース、華碩電脳股份有限公司)は、マザーボードの大手供給者であった。2011年に発表したウルトラブックが大成功し、シェアを拡大した。

引用:http://www.kogures.com/hitoshi/webtext/ref-data/share-suii-pc-global.html

自動車産業に当て嵌めて読み解く未来予想

パソコン業界に起きた出来事
①日本語処理の壁という高い参入障壁によって、海外メーカーから国内市場が守られ、競争方法に大きな変化がなかった
②Windowsにより参入障壁が破壊され、海外メーカーが国内市場に参入してきた
③海外メーカーは水平分業型の構造をとっており、垂直統合型の日本メーカーが競争で敗れた

自動車産業に起きている事
①エンジン開発の壁という高い参入障壁によって、新規参入が難しく世界市場が守られ、競争方法に大きな変化がなかった
②EV(電気自動車)により参入障壁が破壊され、新興国メーカーやソフトウェア会社が市場に参入してきた
③新興国メーカーやソフトウェア会社は水平分業型で参入してきており、既存の垂直統合型の自動車メーカーとの競争がはじまった

EVで新規参入してくるメーカーを見ると、パソコン業界のように水平分業で買って組み立てるというのが主流になってきています。内製で全て作るという考えはなく、その生産設備すらパッケージで他社から買うのが当たり前です。信じられないかもしれませんが、図面すらも他社から購入します。例えばBMWは新興国に対して、数世代前のクルマの図面丸ごとライセンスを売っています。他にも欧州の塗装工程はデュルという会社がシステムからハードの設備までをパッケージで売り出しており、それさえ買えば誰でも欧州企業レベルの塗装工程を入手することができます。
このように、今まではトヨタ自動車のような一つの自動車メーカーが全て内製開発していたことが、今後は買ってきて繋げるのが主流となっていきます。ここで気を付けるべきことは、「日本は品質で負けていないから大丈夫と思ってはいけないこと」です。

少し例を考えましょう。
例えば、生産技術レイヤーをある会社が取った場合、その生産方法が統一され構造が統一されることにより、保守点検の専門性は下がります。またはサービスを他のレイヤーが取得して、スマホで予約すれば勝手にクルマを点検してくれるようになったとすると、消費者はわざわざ販売店に行かないと保守点検の受けられないクルマは買わなくなります。
そうなると結局その生産技術レイヤーのシステムを使わざるを得なくなり競争に敗れます。このような変化が、ナビシステムや自動運転システムなどのシステム面でも起こるようになります。その時に垂直統合型の企業はパソコン業界がそうであったように、競争力を失っていくでしょう。

自動車産業の競争は「完成車」の競争では無くなりました。レイヤー内での競争となったのです。皆、自動車産業のWindowsを目指しています。
代表的なレイヤーマスターを目指しているメーカーを列挙します。
・生産技術・製造技術:コマウ / デュル / シーメンス / マグナ・シュタイヤー
・電池パック:テスラモーター / BYD / VW / CATL
・システム:内製(ブルーオーシャン)
・販売:ネット(ブルーオーシャン)

テスラモーターのクルマはネットで購入が可能です。専用の販売店を持ちません。何故ならパソコン産業の家電量販店の時のように、専門店が足枷になることを最初から予想していたからでしょう。
既存の自動車メーカーは、近く専門店が重くコストにのしかかるようになるのは間違いないです。自動車産業が水平分業となれば、レイヤー毎の繋がりをスムーズにするために、車両構造は標準化され保守点検の専門性は下がります。そうなると専門店で点検する必要はなくなり、いよいよディーラーが不要になります。

日本の自動車製造業が生き残るには、レイヤーマスターになるしかない

日本の自動車産業が生き残るには、2通りの道があります。
①Appleのように、ブランド力を極限まで上げて垂直統合型に拘る
②水平分業に舵を切って、レイヤーマスターを目指してラインビルダーとなる

①は大衆車を捨てて、ブレンド力勝負に出る形となります。この場合、量より質となるため生産台数を抑えることになり、日本の自動車産業全体を支えることは不可能になるでしょう。しかし、生き残ることは可能かもしれません。
②は製造業のレイヤーマスターとなる道です。日本の強みを生かして生産技術・製造技術のレイヤーを取りにいきます。ラインビルダーにシフトすることで新たな雇用を生み出そうという考えです。

私個人としては、②の方が未来を考えると良いと思っています。
ではどうやってラインビルダーになるのか?
すでに先を走っている企業を例に、他の記事で解説していきたいと思います。

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