自動車産業の変革を語る上で外せないのがMaaS
本記事では、MaaSの概略から生まれた経緯を知ることで、目的を正しく理解し自動車産業に与える影響について解説いたします。
MaaSが実現すると何が変わるのか?
MaaSとは、「Mobility as a Survice」の頭文字を取った略称で、移動するためのあらゆる手段「タクシー、バス、鉄道、飛行機、フェリー、シェアバイクなど」を一つのサービス上で統合し、移動をより便利にしようという仕組みである。
何となく言っている意味は分かるが、イメージがつかないという人のために、私たちの暮らしがどのように変わるのか?を具体例で示そうと思います。
下の例はMaaSが実現した世界で遊園地に行こうとした時にどうなるかを示しています。
・MaaSアプリで経路検索をして、その移動プランが良ければ購入します
・後は下記のようにアプリで自動手配されたプランに沿って、案内に任せて移動します
どうでしょうか? 従来、タクシーや電車は異なる業者が運営しているため、
【手配】と【決済】は個別にしなくていけませんでした。また、
【移動のプランニング】もユーザーが自身で調べて行う必要がありました。
(例:8時30分発の電車に乗って、次は9時発のこのバスに乗って…といった計画)
MaaSになると、この面倒から開放されます。アプリに目的地を入れるだけで【プランニング】をしてくれ、【手配】と【決済】を一括で行ってくれます。
更に移動の間の待機時間におすすめの寄り道場所を紹介したり、乗り遅れた時のバックアップ案をすぐに提示してくれたりと、移動のためのストレスから解放してくれるのです。
MaaSレベルの詳細
実は先の例は、MaaS Lv2を示しています。MaaSにはLv4まで存在しますが、その差がどこにあるかを分かり易く示したのが下記の図となります。
MaaS Lv3まで行くと、移動に関わる全ての代金がスマホの通信量のように定額制になり、乗り放題になります。こうなると完全にシームレスな移動という言葉がピッタリと当てはまりますね。
MaaSはなぜ生まれた? 目的は【マイカーからの脱却】
MaaSが生まれるまでの歴史を知ることで、MaaSの目的を正しく知ることができます。
MaaSは2014年に発表されたアールト大学の修士論文が発端であり【1】、
この論文はフィンランドのヘルシンキ市都市計画局が、ヘルシンキの交通システムが向かうべき方向性を見出すために依頼を出して書かれたものでした。
論文を要約すると
・交通システムが抱える問題:マイカー依存
・マイカー依存による問題 :慢性的な渋滞、駐車場不足、環境問題からくる移動のストレス
・マイカー依存の原因 :利便性と快適性において、「公共交通機関<マイカー」のため
・マイカー依存の解決策 :マイカーが無くとも移動に困らない世界を作る
となる。公共交通機関を含めた移動手段を組み合わせて、ワンパッケージ化することでマイカーを越える利便性と快適性を実現し、マイカー依存を脱却しようというのがMaaS発祥の目的である。
【1】Sonja Heikkila.(2014). Mobility as a Service – A Proposal for Action for the Public Administration
MaaSで得する人、損する人
MaaSの目的がマイカーからの脱却がであれば、もちろん得する人と損する人が存在することになる。
フィンランドでは、マイカー保有に関わるコストが移動費全体の80%もある。
これは自動車産業を保有しないフィンランドでは、移動費のほとんどが国外流出していることを示す。
MaaSによってマイカー脱却をした場合、移動費は公共交通機関やそのサービスに流れるため、国内でお金が循環することとなり、更なる公共交通機関の発達、サービス向上が起き持続的に国が潤うこととなる。
つまりMaaSは、
・自動車産業を持たない国にとっては、自国が潤う経済思想である
・自動車産業を持っている国にとっては、クルマが売れなくなり輸出による利益が減る経済思想である
・自動車メーカーにとっては、クルマの保有台数が減るため減益する思想である
MaaSはユーザー目線で見た時には喜ばしいが、メーカー目線で見た時には脅威であることが分かる。
メーカーが『自動車を製造販売するだけでは生き残れない!MaaSオペレーターとなりサービス事業のシェアを何としても確保しなければ!』と考えるのは自然だろう。
全世界の自動車産業のゲームチェンジを引き起こした理由の一つにMaaSがあるというのはこの点からである。
次章で詳しく触れようと思う。
MaaSはユーザー目線への考え方のシフトで生まれた!?
マイカーの脱却が目的だと分かったところで、その目的を達成するために何に注目していったかを解説します。
○MaaS発祥の目的:マイカーの脱却
○具体的な方法:需給の不一致の解消
マイカーか公共交通機関機関かの2択しかない中で、満たせていない移動のニーズが存在していた。
交通事業者とは別の存在を介入させることで、交通事業者と交通利用者の間の需給の不一致を解消することで、ニーズを満たしてマイカーを越える利便性と快適性を得られるようにした。
これらがMaaSという思想が生まれた経緯である。事業者目線からユーザー目線に変換したことで発想が生まれていることがわかるだろう。
MaaSの引き起こすゲームチェンジ【自動車製造販売 < サービス】の時代へ
ここでは自動車業界のゲームチェンジについて解説していきます。MaaSだけで決まった訳ではないのですが、地続きで理解し易いのでここで解説します。他の記事も読んで頂けるとより詳しく内容が理解できるかと思います。またテスラやトヨタ、VWなどの自動車メーカーがどのようにこのゲームチェンジに対応しているかは別記事で書く予定なので、興味があれば読んでみてください。
100年に一度の大変革期 その方向性は決まってしまった?
自動車産業は、100年に一度の大変革期と言われてきました。しかし大変革の方向性を模索する時期は終了したと言えます。なぜならその方向性は決まってしまったからです。
どこの企業が覇権を握るのかは決まっておりませんが、戦場は決まったといえます。
✖️電気自動車(EV)の販売台数が多い会社が覇権を握るのではありません
○モビリティサービスのエコシステムを構築しシェアを先に獲得したところが覇権を握ります
※エコシステム:各メーカー戦略の記事で詳細を解説しますので知りたい方はそちらを見てください
自動車産業はサービス産業になる!? 次世代の競争に勝つビジネスモデルとは
トヨタ自動車が2018年に、自動車会社からモビリティカンパニーへフルモデルチェンジすると発表したのをご存知でしょうか?
何が違うんだ…と思うかもしれませんが、絵で表すと違いがわかります。
◆従来のビジネスモデルの特徴
・あらゆる移動の選択肢の内、マイカー移動だけを提供
・クルマの販売が一番の目標
・クルマの販売台数 → 会社の利益
◆新ビジネスモデルの特徴
・全ての移動の選択肢のうち、ユーザーに最も有益な移動方法を提供
・✖️クルマの販売 < ○ユーザーが快適・有益なサービスを提供することが目標
・✖️クルマの販売台数 < ○サービス利用者数 → 会社の利益
クルマの販売台数に影響されないビジネスモデルであることが分かりますね。今ほぼ全ての自動車メーカーがこのMaaSオペレーターとしての役割を担おうと画策しています。今後自動運転が実用化されて行けば、移動に占めるサービスの重要性は更に上がって行きます。
製造販売の仕事が無くなる訳ではないですが、販売台数が将来的に減っていくことが分かっているため、それだけで事業を維持できるメーカーは一握りとなるでしょう。
最後に
私自身が自動車産業のど真ん中で仕事をしており、大きな変化を感じながら生活をしています。
恐らく、多くの自動車産業従事者の方が、現状の製造販売の仕事に精一杯であり、漠然として不安はあれど何も出来ない状況なのではないでしょうか?
私もその一人です。
”漠然とした不安”を”明確な不安”に、そして”明確な不安”から”解決”に転じれるように、時間のない仲間が時間をかけずに勉強できるブログを目指して執筆しています。
本記事を執筆するにあたり、下記の文献を参考にしました。
日高洋祐、牧村和彦、井上岳一、井上佳三著、勝俣哲夫編
「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」日経BP ,2018年11月26日 ,319頁
「Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命ー移動と都市の未来ー」日経BP ,2020年3月9日 ,431頁
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